北欧の深い針葉樹林に囲まれた「ルオスト湖」の冬は、世界のすべての音を凍りつかせるかのように静まり返る。夜空には満天の星々が瞬き、時に緑や紫のオーロラが天幕を揺らすこの地には、古くから「歌う氷板(ひょうばん)」と呼ばれる奇妙な自然現象の伝承が残されていた。
地元の音楽学校で音響物理学を学ぶ女子学生のエリアは、祖父の代から続く古い木造の観測小屋に籠もり、湖面に張った巨大な氷の盤面が奏でる微細な振動の観測を続けていた。彼女の目的は、伝承の背後に隠された、波動力学的な干渉現象を数理的に解き明かすことである。
「波動の美しさは、異なる経路をたどった波が出会うとき、互いを強め合い、あるいは打ち消し合うその調和にある」
エリアは観測データを整理しながら、夜の静寂の中に独自の波動実験系を思い描いていた。彼女は、凍りついた湖面の上に、完全に直線的で滑らかな1本の導波路(これを x 軸とする)を設定した。この軸上には、波の伝播を乱す障害物は一切なく、極めて理想的な波動の重ね合わせが実現できる環境が整っている。
彼女はこの x 軸上の異なる2つの位置に、精密な同調機能を持つ音響発振器(点音源)を設置した。 原点 x=0m に固定された第一の発振器を「音源S_1」、そこから x 軸の正の向きに十分離れた位置 x=d に固定された第二の発振器を「音源S_2」と呼ぶ。 これら2つの音源は、湖畔の冷え切った空気(この空間における音速を V とする)に向けて、それぞれ決まった振動数の等方的な球面波を放射する。ただし、今回の実験においてエリアが注目するのは、音源間を結ぶ x 軸上、およびその延長線上の直線軌道に沿って伝わる波の成分のみである。空気の粘性や拡散による波の振幅の減衰は、今回の観測範囲内においては完全に無視できるものとし、それぞれの波の振幅は位置によらず一定の等しい値に保たれるものと仮定する。
エリアは、2つの音源の初期設定を厳密に行った。 音源S_1と音源S_2は、どちらも同一の一定な振動数 f の正弦波を発生させる。 また、波の位相の基準となる時刻 t=0s において、音源S_1と音源S_2から送り出される波は、全く同じ位相(同位相)で振動を開始するように同期されている。すなわち、位相の基準点および基準時刻において、2つの音源の間に固有の位相差は存在しない。 波の進行方向は、それぞれの音源から x 軸の正の向き、および負の向きの両方へと対称に広がっていく。
エリアはまず、2つの音源に挟まれた区間、すなわち 0<x<d の領域に精密なマイクロフォン(観測器)を配置した。 この領域では、音源S_1から x 軸の正の向きに進む波と、音源S_2から x 軸の負の向きに進む波が出会うため、空間に「定常波」が形成される。 定常波の隣り合う「節(ふし)」と「節」の間隔は、波の波長を λ としたとき 2λ で表される。エリアがこの区間内でマイクをゆっくりと動かしていくと、音が完全に打ち消し合って静寂に包まれる位置(定常波の節)が、規則的な間隔を置いて次々と観測された。彼女の記録によると、この音源間の有限な区間 0<x<d の内部には、定常波の節がちょうど N 個だけ存在していた。なお、音源S_1および音源S_2の置かれているピンポイントの位置( x=0 および x=d )のちょうど真上は、節の数 N のカウントには含めないものとする。
次に、エリアはマイクを音源S_2よりもさらに右側の領域、すなわち x>d の区間へと移動させた。 この領域において、観測される音の強さは、2つの音源から到達する波の「経路差(同位相で送り出された波が歩んだ距離の差)」によって決定される。 位置 x (ただし x>d )における音源S_1からの距離は x であり、音源S_2からの距離は x−d である。したがって、この領域における2つの波の経路差 ΔL は、観測位置 x に依存せず、常に音源間の距離そのものに等しくなる。すなわち、以下の関係が成り立つ。
ΔL=x−(x−d)=d
この領域 x>d では、経路差が常に一定値 d に固定されるため、マイクをどの位置に動かしても、聞こえる音の大きさは変化せず一様となる。 エリアが発振器の同調ツマミを回し、音源の振動数 f を特定の初期値から連続的にゆっくりと増加させていったとき、この領域 x>d で観測される音の強さは、大きくなったり小さくなったりを周期的に繰り返した。 これは、振動数の変化によって波長 λ=fV が連続的に変化し、固定された経路差 d が波長の整数倍(強め合いの条件)、あるいは半整数倍(弱め合いの条件)を順に満たしていくためである。
エリアの観測ノートには、このときの現象が次のように詳細に記録されていた。 「音源の振動数 f を、ある基準となる下限の振動数 f0 から連続的に大きくしていった。振動数 f が、 f0 より大きい特定の振動数 f1 に達した瞬間、領域 x>d における音の大きさは、周囲の静寂を切り裂くような『最大(強め合い)』を記録した。 さらにそこから振動数を引き上げていくと、音は一度小さくなり、その後、振動数が f2 に達した瞬間、再び『最大(強め合い)』を記録した。この2つの連続する強め合いの振動数の間には、 f2=1516f1 という極めて精密な比率が成り立っていた」
エリアはこのノートの記述を見つめながら、夜風に揺れるランタンの火を調節した。 音の強め合いが連続して起こるということは、振動数 f1 における強め合いの次数を m ( m は正の整数)と置いたとき、振動数 f2 における強め合いの次数は m+1 に対応していることを意味する。 領域 x>d における強め合いの一般的な条件式は、正の整数 k を用いて d=kλ=kfV 、すなわち f=kdV と表される。これより、エリアは次数 m の値を一意に決定することに成功した。
さらに、この実験系における特定の振動数 f1 の正弦波が音源から放射されているとき、最初に調査した音源間の区間 0<x<d に形成される定常波の節の総数 N もまた、数理的な関係性から一意に導き出すことができるはずである。
エリアは冷えた指先で計算尺を動かし、音源間の距離、音速、そして振動数が織りなす波動の幾何学的な干渉模様を組み立てていく。窓の外では、ルオスト湖の氷板が夜の寒気にきしむ音が、まるで遠い楽器の低音のように響いていた。
さて、ここで問題である。領域 x>d において、連続する2つの音の強め合いを与える振動数が f2=1516f1 という関係を満たしているとき、音源の振動数が f1 である瞬間に、音源の間の区間 0<x<d の内部に形成される定常波の「節の総数」 N を求めよ。ただし、求めるべき解答は、この節の総数 N の値をそのまま答えるのではなく、後述の【入力形式】に従って算出される純粋な自然数である。これまでの設定と条件を精査し、一意に定まる正解を導き出せ。
計算によって導出された、音源間の区間内の定常波の節の総数を N とする。 このとき、値 W=N×4610 を計算し、得られる自然数を答えよ。
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