霧深い丘の頂に建つ、中世の修道院を改装した私立「アルキメデス科学高等学術院」。その最上階にある大調律室には、19世紀の実験物理学者たちが遺した、歴史的にも非常に貴重な大型の電気力学的実験装置が鎮座していた。
この学術院に籍を置く特待生の青年・律(りつ)は、冬至の夜、静まり返った大調律室の格子窓から差し込む、冷たい月光の下で一人、机に向かっていた。彼の前に置かれているのは、長年誰も触れることのなかった、完全に水平に固定された2枚の極めて大きな真鍮製の円盤からなる、円形平行平板コンデンサーである。
「この美しい対称性の中にこそ、マクスウェルが予言した電磁場の真理が隠されている……」
律は、手元の古い羊皮紙のノートに記された装置の構造と、現代の電磁気学の定式化を照らし合わせながら、内部設計の構築を始めた。
この平行平板コンデンサーの2枚の円盤状極板(それぞれ極板A、極板Bとする)は、半径が R であり、互いに中心軸を完全に一致させた状態で、空気中に対向して配置されている。2枚の極板の間隔は d であり、この間隔は極板の半径に比べて十分に小さい( d≪R )。そのため、極板の端部における電気力線の乱れ(端効果)や、外部への電場の漏れは完全に無視することができ、極板間には常に一様な電場が形成されるものと仮定してよい。真空の誘電率を ε0 とすると、この空気のみを挟んだ状態におけるコンデンサーの初期の電気容量 C0 は、よく知られた公式の通り C0=ε0dπR2 と表される。
このコンデンサーの極板Aと極板Bは、外部に設けられた、内部抵抗が完全に無視できる起電力(電圧) V0 の理想的な直流安定化電源、および電気抵抗値が Re の均一な抵抗器、そして開閉が自在な精密スイッチSを介して、一連の直列回路(RC回路)を構成している。
時刻 t=0s の直前において、コンデンサーには電荷は一切蓄えられておらず、回路に電流は流れていなかった。また、スイッチSは開かれた状態であった。 時刻 t=0s の瞬間、律は静かにスイッチSを閉じた。 これにより、電源から回路を通してコンデンサーへと電荷の流入が始まり、過渡的な充電現象が開始された。このとき、回路を流れる電流を i(t) 、コンデンサーの極板に蓄えられる電荷の絶対値を q(t) とすると、キルヒホッフの第二法則(回路方程式)より、任意の時刻 t において以下の関係式が厳密に成立する。
V0=Rei(t)+C0q(t)
ここで、電流は電荷の時間変化率(微分の定義)に等しいため、 i(t)=dtdq(t) と表される。この一階線形微分方程式を、初期条件 q(0)=0 の下で解くことにより、任意の時刻 t における蓄積電荷量 q(t) は、時定数 τ0=ReC0 を用いて以下のように一意に導出される。
q(t)=C0V0(1−e−τ0t)
律が真に興味を抱いていたのは、この充電プロセスの途中に計画された、ある大胆な実験操作であった。 彼は、スイッチSを閉じてから、ちょうどこの回路の初期の時定数に等しい時間、すなわち時刻 t1=τ0=ReC0 が経過した「運命の瞬間」を待ち構えていた。この時刻 t1 に達した瞬間、極板に蓄えられていた電荷の量は、最大値 C0V0 の (1−e1) 倍という、中途半端で過渡的な状態にある。
律はこの時刻 t1 に達した瞬間に、コンデンサーを電源回路から完全に切り離すため、スイッチSを「極めて素早く(一瞬で)」開いた。 スイッチを開いたことにより、コンデンサーの極板は外部回路に対して完全に電気的に孤立した状態となる。したがって、電荷の逃げ道は完全に失われ、これ以降、極板に蓄えられた電荷の絶対値は、時刻 t1 における値 Q1=q(τ0) のまま、未来永劫変化せず一定に保たれる(電荷守律)。
Q1=C0V0(1−e−1)=C0V0(1−e1)
しかし、律の実験はここで終わりではなかった。彼は、極板を電気的に孤立させた状態(時刻 t>t1 )のまま、あらかじめ用意していた、極板と全く同じ半径 R で、厚さが極板間隔と完全に等しい d である、円盤状の不均一な特殊誘電体プレートを、2枚の極板の隙間に向かって、中心軸を一致させた状態を保ちながら水平に滑り込ませた。
この特殊誘電体プレートは、場所によって誘電率が連続的に変化する幾何学的なグラデーション構造を持っていた。具体的には、円盤の中心(軸上)からの距離を r ( 0≤r≤R )としたとき、その位置における局所的な比誘電率 εr(r) が、次のような関数形式で与えられていたのである。
εr(r)=1+α(1−R2r2)
ここで、 α はこの特殊誘電体の物理的特性を表す正の無次元定数である。この式が示す通り、誘電体は中心軸付近で最も比誘電率が高く( 1+α )、外周部に向かうにつれて緩やかに低下し、最外周( r=R )では空気と全く同じ値( 1 )に滑らかに接続する。
律がこの誘電体プレートを極板間の空間に完全に隙間なく挿入し終えたとき、コンデンサーの内部空間は、この半径方向に不均一な誘電率を持つ媒体によって完全に満たされた状態となった。
「誘電体が挿入されたとき、極板間の電場と電位差は、電気力線の幾何学的な再配置によって、新たな調和状態へと移行する」
極板は導体であるため、電荷が内部を自由に移動した結果、それぞれの極板全体はどこをとっても等電位(静電平衡状態)に達する。したがって、誘電体挿入後の終状態において、極板Aと極板Bの間の電位差(電圧)は、場所 r によらず、完全に一様で一定の値 V2 に落ち着く。 一方で、極板間の電場の強さ E(r) は、電位差と間隔の関係式 V2=E(r)d より、 E(r)=dV2 となり、これも場所 r によらず一様となる。
しかし、電場が一様であるということは、誘電率が場所によって異なるため、極板上の電荷の分布(面電荷密度)はもはや一様ではなくなることを意味する。中心からの距離 r における局所的な電束密度の大きさを D(r) とすると、電場との間に D(r)=ε0εr(r)E(r) の関係が成り立ち、ガウスの法則より、この電束密度がその位置における極板の局所的な面電荷密度 σ(r) に直接対応する。すなわち、以下のようになる。
σ(r)=ε0εr(r)dV2
律は、この不均一な面電荷密度を極板の全表面( 0 から R まで)にわたって同心円状に微小面積 2πrdr で積分することにより、誘電体挿入後における極板全体の総電荷量が、この電位差 V2 を用いてどのように表されるかを立式した。そして、その総電荷量が、スイッチを開いた瞬間に保存された値 Q1 に完全に等しいという「電荷守律の等式」を結んだ。
∫0Rσ(r)⋅2πrdr=Q1
この確固たる代数的な接続により、律は、誘電体を挿入した後のコンデンサーの最終的な電位差 V2 が、初期の電源電圧 V0、ネイピア数 e、および誘電体の特性定数 α を用いて一意に決定されることを確信した。
窓の外では、学術院を取り囲む針葉樹の森が夜風にざわめき、冷徹な月光が真鍮の円盤の鈍い輝きを際立たせていた。律は、過渡現象の微分方程式と、空間積分の数理が美しく融合していくそのプロセスを、静かにノートへと書き留めていった。
さて、ここで問題である。不均一な誘電体プレートを完全に挿入し終えた終状態において、コンデンサーの極板間の電位差(電圧)は V2=βV0(1−e1) と表すことができる。このとき、比例係数にあたる無次元量 β の値を求めよ。ただし、求めるべき解答は、この無次元量 β の値をそのまま答えるのではなく、後述の【入力形式】に従って算出される純粋な自然数である。文章中に提示されたすべての幾何学的・電磁気学的な境界条件を正しく整理し、一意に定まる正解を導き出せ。
計算によって得られた、電圧の係数を表す無次元比 β は既約分数 qp ( p,q は互いに素な自然数)として表すことができる。 このとき、値 U=p×q×15000 を計算し、得られる自然数を答えよ。
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