初秋の風が優しく吹き抜ける「水鏡湖(みずかがみこ)」のほとりには、かつて世界的なオーケストラで首席フルート奏者を務めていた老音楽家が暮らした、小さな木造のコテージがぽつんと佇んでいた。主を失って久しいそのリビングの机の上には、彼が終生愛用していた、美しい銀製のフルートが当時のまま静かに置かれていた。
地元の音楽高校に通う孫娘の詩織(しおり)は、祖父の遺品を整理するため、数年ぶりにこのコテージを訪れていた。彼女自身もフルートを学んでおり、祖父が遺した楽器を手に取ると、そのずっしりとした銀の重みと、磨き抜かれた管体の美しさに思わず息をのんだ。 フルートは、管の内部にある空気の柱(気柱)を共振させることで美しい音色を奏でる、典型的な「開管(両端が開いた管)」の構造を持つ管楽器である。
「おじいちゃんはいつも言っていたな。楽器を正しく鳴らすということは、管の中に最も調和のとれた波の形を作り出すことなんだ、と」
詩織はコテージの窓を開け、静かな湖面を見つめながら、学校の物理の授業で習った「気柱の振動」の法則を思い出していた。 彼女は、フルートのすべての音孔(指穴)を完全に塞いだ状態にセットした。このとき、フルートの管体は、一方の端(唄口)からもう一方の端(足部管の末端)まで、完全に一本の均一な直線状の空洞となる。この状態における管の有効な長さを L とする。この開管の内部にある空気(この空間における音速を V とする)は、外部からの余計な気流の影響を受けず、温度や密度も一定で極めて安定した状態に保たれている。
詩織は、フルートの唄口にそっと唇を当て、息を優しく、かつ正確に吹き込んだ。 彼女が吹き込んだ息の振動によって管内の空気が共振し、管の内部には、両端が完全に開いた開管特有の「定常波」が形作られていった。 開管の性質として、空気の分子が最も自由に動くことができる管の外面(両端の開口部)のちょうど真上の位置は、定常波の「腹(大きく振動する点)」となる。 詩織が最も無理のない、基本となる息の強さで吹き込んだとき、管内には、両端が「腹」であり、中央の1箇所だけが空気の動きが完全に止まる「節(ふし)」となる、最もシンプルな振動パターンの定常波が形成された。これは、波動力学において「基本振動(1倍振動)」と呼ばれる、最も低く澄んだ音を生み出す状態である。
このとき、管の長さ L の内部に形成されている定常波は、ちょうど「腹から隣の腹まで」の区間に対応している。定常波の隣り合う「腹」と「腹」の間隔は、波の波長を λ1 としたとき 2λ1 で表されるため、管の長さと基本振動の波量の間には L=2λ1 、すなわち λ1=2L という極めて簡潔な幾何学的関係が成り立っている。
詩織は、その基本振動の状態でフルートを優しく鳴らし続けた。コテージの室内に、優しく、どこか哀愁を帯びた純粋な基音が響き渡る。 彼女が注目したのは、このときフルートから周囲の空気中へと放射されている音波の「振動数(周波数)」 f1 の具体的な数値であった。 音波の伝播において、音速 V、振動数 f1、そして波長 λ1 の間には、波動の最も基本的な関係式である 速度=振動数×波長 ( V=f1λ1 )が厳密に成立する。これより、詩織が奏でている基本音の振動数は、以下の公式によって一意に導き出される。
f1=λ1V=2LV
詩織は手元にあった祖父の古いノートの余白に鉛筆を走らせ、台帳に記録されていたフルートの正確な管の長さと、秋の日の室温から計算される正確な音速の数値を用いて、いま湖畔の静寂を震わせている音の振動数を厳密に算出しようとした。 窓の外では、夕日が湖面を黄金色に染め上げ、詩織が奏でる調和の取れた旋律が、冷徹な波動の幾何学に従いながら、静かに、そして美しく広がっていった。
さて、ここで問題である。すべての音孔を塞いだ有効な長さ L の開管(フルート)において、基本振動(1倍振動)の定常波が生じている。このとき、フルートから発生している音波の振動数の値 f1 を求めよ。ただし、求めるべき解答は、この振動数 f1 の数値をそのまま答えるのではなく、後述の【入力形式】に従って算出される純粋な自然数である。文章中に提示されたすべての数値を正しく整理し、一意に定まる正解を導き出せ。
計算によって得られた、基本振動の音波の振動数 f1 の値を、SI単位系( Hz )で表す。 このとき、値 W=f1×1600 を計算し、得られる自然数を答えよ。
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