GSO012 問題8
Problem Statement
皮膚に貼る無電池ハプティック・パッチ
問題文
皮膚に柔らかく貼り付き、振動によって触覚情報を伝える無電池のハプティック・パッチを考える。パッチは、外部の送電コイルがつくる交流磁場から電力を受け取る。
送電側は、理想交流電源、送電側の損失をまとめて表す抵抗 R1、自己インダクタンス L1 のコイル、コンデンサー C1 をすべて直列に接続した回路である。交流電源の実効値を U とし、負荷を変化させても U は一定に保たれる。
受電側は、自己インダクタンス L2、巻線抵抗 r をもつ柔軟なコイル、調整可能なコンデンサー C2、可変負荷抵抗 RL をすべて直列に接続した回路である。RL>0 とする。
実際のパッチに含まれる整流回路、電源管理回路、振動を発生させるアクチュエーターなどは、本問では交流側から見た純抵抗 RL に置き換える。
送電側と受電側の間に導線による接続はない。二つのコイルの相互インダクタンスを M とする。角振動数 ω の正弦波電流の実効値が一方のコイルで I であるとき、他方のコイルに生じる相互誘導起電力の実効値の大きさは ωMI である。
交流電源の角振動数は、
ω0L1=ω0C11を満たす値 ω0 に固定されている。
動作前に C2 を調整し、受電側についても、
ω0L2=ω0C21となるようにする。
その後、実験者は負荷抵抗 RL を次の二つの方針のいずれかで選ぶ。
一方では、負荷抵抗 RL で消費される平均電力 PL が最大になるように RL を選ぶ。この抵抗値を RP とする。
他方では、理想交流電源が送電側回路へ供給する平均有効電力を Pin とし、
η=PinPLで定義される電力伝送効率が最大になるように RL を選ぶ。この抵抗値を Rη とする。
放射損失、寄生容量、誘電損失は無視し、コンデンサーは理想素子とする。パッチの変形による L2,r,M の変化も無視し、L1,L2,R1,r,M は動作中一定とする。
制約
- L1=4μH
- C1=250nF
- R1=800mΩ
- L2=5μH
- r=500mΩ
- M=800nH
入力形式
受電側を共振させる容量について、
C1C2=baとする。
また、二つの方針で選ばれる抵抗について、
(RPRη)2=dcとする。
それぞれを既約分数とし、a,b,c,d は正の自然数とする。
a+b+c+d を入力せよ。
Solution
二つの回路を同じ角振動数で共振させる
送電側では、
ω0L1=ω0C11であるから、
ω0=L1C11です。
数値を代入すると、
ω0=(4×10−6)(250×10−9)1=106rad/sとなります。
受電側についても同じ ω0 で直列共振させるため、
C2=ω02L21です。
したがって、
C2=(106)2(5×10−6)1=200nFとなります。
よって、
C1C2=250200=54より、
a=4,b=5です。
導線でつながっていない負荷が送電側からどう見えるか
送電側と受電側の電流の実効値をそれぞれ I1,I2 とします。
また、
A=ω0Mとおきます。
受電側は直列共振しているので、自己インダクタンスとコンデンサーのリアクタンスは互いに打ち消し合います。
したがって、送電側電流によって受電側に生じる相互誘導起電力 AI1 は、抵抗 r+RL にかかります。
よって、
I2=r+RLAI1です。
ここで、
A=(106)(800×10−9)=0.8Ωとなります。
ここから、相互誘導の反作用を平均電力から考えます。
受電側で抵抗成分が消費する平均電力は、
P2=I22(r+RL)です。
I2 を代入すると、
P2=r+RLA2I12となります。
放射損失などを無視しているため、この電力はすべて送電側から磁気結合を通じて受電側へ渡されたものです。
そこで、送電側から見て同じ平均電力を消費する等価な抵抗を Rref とし、
P2=I12Rrefと書けば、
Rref=r+RLA2を得ます。
つまり、導線では直接つながっていない受電側の負荷が、磁気結合を介して送電側から追加の抵抗として見えます。
送電側自身も直列共振しているので、
U=I1(R1+Rref)です。
したがって、
U=I1(R1+r+RLA2)より、
I1=R1(r+RL)+A2U(r+RL)となります。
これを受電側電流の式へ代入すると、
I2=R1(r+RL)+A2AUです。
負荷へ送られる電力を最大にする
負荷抵抗で消費される平均電力は、
PL=I22RLであるため、
PL=[R1(r+RL)+A2]2A2U2RLとなります。
ここで、
B=R1r+A2とおけば、
PL=A2U2(R1RL+B)2RLです。
さらに、
x=BR1RLとおくと、x>0 であり、RL に依存する部分は、
(1+x)2xに比例します。
ここで、
(1+x)2−4x=(1−x)2≥0より、
(1+x)2x≤41です。
等号は x=1 のときに成立するので、
R1RP=Bとなります。
よって、
RP=r+R1A2です。
数値を代入すると、
RP=0.5+0.80.82=1.3Ωとなります。
電力伝送効率を最大にする
自己インダクタンスおよび理想コンデンサーのリアクティブ成分は、一周期平均ではエネルギーを消費しません。
したがって、平均有効電力を消費するのは抵抗成分だけであり、
Pin=I12R1+I22(r+RL)です。
よって、
η=I12R1+I22(r+RL)I22RLとなります。
ここに、
I2=r+RLAI1を代入すると、
η=(r+RL)[R1(r+RL)+A2]A2RLです。
最大値を求めるため、その逆数を考えます。
η1=1+A22R1r+A2R1RL+(A2R1r2+r)RL1となります。
初めの二項は RL に依存しません。
残る二項はともに正であるため、相加平均と相乗平均の関係より、両者が等しいときに和が最小になります。
したがって、
A2R1Rη=(A2R1r2+r)Rη1です。
整理すると、
Rη2=r2+R1A2rとなります。
一方、
RP=r+R1A2であったため、
Rη2=rRPという関係が得られます。
したがって、
Rη=rRPです。
つまり、電力伝送効率を最大にする負荷抵抗は、受電コイル自身の巻線抵抗 r と、負荷電力を最大にする抵抗 RP の幾何平均になります。
また、r<RP なので、
r<Rη<RPです。
さらに、
(RPRη)2=RPrであるから、
(RPRη)2=1.30.5=135となります。
よって、
c=5,d=13です。
この結果が意味すること
負荷抵抗 RL を変えると、受電側の電流だけでなく、
Rref=r+RLA2で表される、送電側から見た等価抵抗も変化します。
そのため、負荷へ送られる電力を大きくすることと、送電側や受電コイルでの損失を含めた伝送効率を高くすることは、同じ最適化問題ではありません。
特に、
Rη=rRPという結果から、二つの最適条件の間に幾何平均という単純な関係が現れることが分かります。
入力値
以上より、
a+b+c+d=4+5+5+13=27です。
入力すべき自然数は、
27です。
題材と単純化
本問のハプティック・パッチは、皮膚に密着して動作する無線・無電池型ハプティック・インターフェースの研究 [1] を題材としている。実機の電源管理回路やアクチュエーターは省略し、磁気結合した二つの直列RLC共振回路と純抵抗負荷からなるモデルへ単純化した。
また、磁気結合型無線給電では、負荷条件によって最大受電電力を与える条件と最大伝送効率を与える条件が一致しない場合がある [2]。
参考文献
[1] X. Yu et al., “Skin-integrated wireless haptic interfaces for virtual and augmented reality,” Nature, vol. 575, pp. 473–479, 2019.
[2] M. D. Rotaru et al., “Numerical and experimental study of the effects of load and distance variation on wireless power transfer systems using magnetically coupled resonators,” IET Science, Measurement & Technology, vol. 9, pp. 160–171, 2015.