19世紀の終わりから昭和の中頃にかけて、ニッケルや銅の採掘で大いに栄えた「金剛山(こんごうざん)鉱山」は、今や木々に覆われ、静かに眠る巨大な廃墟と化していた。かつて何百人もの坑夫たちが汗を流し、トロッコが行き交った中央坑道の入り口は、分厚いコンクリートの壁で完全に閉鎖されている。
地元の歴史研究会に所属する青年・朔太郎(さくたろう)は、鉱山の全盛期の遺構を調査するため、特別に許可を得て、坑道外壁に残された垂直な資材搬入用の縦穴(シャフト)の前に立っていた。深い緑に囲まれたその場所には、錆びついた鉄骨の櫓(やぐら)がそびえ立ち、その最上部には、かつて重い鉱石を地上へ引き上げるために使われた、大きな鉄製の滑車が当時のまま残されていた。
「……この滑車は、長年の放置によってベアリングの油が完全に固着しているな。ロープをかけても全く回る気配がない。完全に固定された『定滑車』と同じ状態だ。だが、滑車自体の強度は保たれており、表面は雨風で磨かれて驚くほど滑らかになっている。ロープとの間に生じる摩擦力は、この状態なら無視してよいだろう」
朔太郎は、櫓の最上部にある固定滑車に、伸縮性のない極めて軽くて丈夫な1本のワイヤーロープを掛けた。 ロープの両端は、縦穴の内部へと鉛直下向きにまっすぐ垂れ下がっている。ロープ自体の質量や、空気による抵抗は、今回の静かな観測環境においては完全に無視できるほどに小さい。
彼は、ロープの片方の端(左側)に、調査用の資材を収めた質量 m1 の頑丈な木箱(物体A)をしっかりと結びつけた。 そして、ロープのもう片方の端(右側)には、鉱山跡の地面に転がっていた、質量 m2 の均一な密度の重量石(物体B)を結びつけた。木箱の質量 m1 よりも、重量石の質量 m2 の方が大きいため( m2>m1 )、このまま手を離せば、重力の作用によって重量石(物体B)が下向きに、木箱(物体A)が上向きに、それぞれ連動して動き出すことは明白であった。
朔太郎は、2つの物体を同じ高さに保ったまま、ロープをピンと張った状態で静止させた。 時計の針が正午を指した瞬間、彼は両手から静かに力を抜き、2つの物体を同時に解放した。この瞬間を時刻 t=0s とする。
「質量に差がある2つの物体が、1本のロープで結ばれて運動するとき、系に働く張力と重力のバランスによって、両者は完全に等しい大きさの加速度で進み始める」
朔太郎は、手を離した直後に2つの物体が描き出す等加速度直線運動の軌跡を、頭の中で確固たる運動方程式へと置き換えていた。 物体Aが上向きに受けるロープの張力の大きさを T、物体Bが上向きに受けるロープの張力の大きさも同じく T とする。この地域における重力加速度の大きさを g とし、上向きを正とした物体Aの運動方程式、および下向きを正とした物体Bの運動方程式は、それぞれ以下のように美しく立式される。
m1a=T−m1g
m2a=m2g−T
この2つの式から張力 T を消去して、物体に生じる加速度の大きさ a について解くと、以下の公式が一意に導き出される。
a=m2+m1m2−m1g
物体Aと物体Bは、どちらも初速度ゼロの状態から、この一定の加速度 a を持って、それぞれの方向へとまっすぐに動き出した。 朔太郎が注目したのは、手を離してからちょうど時間 t1 が経過した瞬間(時刻 t=t1 )の、物体A(木箱)の運動状態であった。物体Aは、この時間の間、鉛直上向きに一定の加速度 a で加速され続けており、時刻 t1 に達した瞬間には、ある明確な速さ v1 に達しているはずである。
「初速度がゼロの等加速度直線運動において、時間 t1 が経過した瞬間の速さは、加速度 a と時間 t1 の単純な積 v1=at1 によって決定される」
朔太郎はポケットから取り出したノートの余白に鉛筆を走らせ、台帳に記された木箱の質量、重量石の質量、そしてストップウォッチが静かに刻んだ正確な時間を用いて、暗い縦穴の内部で連動しながら加速していく物体の速さを厳密に算出しようとした。 遮るもののない静寂の中、鉄の櫓からカチリと響いた小さな時計の音が、古い鉱山跡に冷徹な物理法則の到来を告げていた。
さて、ここで問題である。質量 m1 の物体Aと質量 m2 の物体Bが、固定滑車に掛けられたロープで結ばれ、初速度ゼロから運動を開始した。手を離してからちょうど時間 t1 が経過した瞬間に、鉛直上向きに運動している物体Aが持っている速さの値 v1 を求めよ。ただし、求めるべき解答は、この速さ v1 の数値をそのまま答えるのではなく、後述の【入力形式】に従って算出される純粋な自然数である。文章中に提示されたすべての数値を正しく整理し、一意に定まる正解を導き出せ。
計算によって得られた、時刻 t=t1 における物体Aの速さ v1 の値を、SI単位系( m/s )で表す。 このとき、値 W=v1×25000 を計算し、得られる自然数を答えよ。
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