問題文
ケルビン水滴発電機の誘導リングとアクリルスリーブの分極
問題文
ケルビン水滴発電機の片側の誘導部を、次のように理想化する。
鉛直下向きに流れる水の細い柱を半径 a の導体円柱とみなし、この水柱は水滴がちぎれる直前まで接地されている。水柱のまわりには、同軸に金属製の誘導リングが置かれており、誘導リングは半径 b、有効長 L の薄い導体円筒とみなせる。誘導リングは接地された水柱に対して電位差 V だけ高い電位に保たれている。
水柱と誘導リングの間には、半径 a から半径 c まで空気があり、半径 c から半径 b まで一様なアクリル製の円筒スリーブが入っている。アクリルスリーブは誘導リングと同じ有効長 L をもち、誘導リングと同じ軸を共有している。アクリルの比誘電率を εr とする。端効果は無視し、電場は半径方向のみを向くものとする。
ただし、正の変数 r について、次の積分公式を用いてよい。
∫r1r2r1dr=lnr1r2(0<r1<r2)
また、半径 r、誘電率 ε の同軸円筒状の空間で、内側導体表面に誘導される自由電荷の線密度の大きさが λ であるとき、電場の大きさは
E(r)=2πεrλ
と表されるものとする。
水柱は接地されているため、誘導リングの電位によって水柱表面には自由電荷が誘導される。水滴がちぎれる瞬間、その水滴は、長さ L の水柱部分に誘導されていた自由電荷と同じ大きさの電荷を持って落下するとする。
また、同じ装置からアクリルスリーブを取り外し、半径 a から半径 b までをすべて空気にした場合に、同じ電位差 V で水滴が持つ電荷の大きさを q0 とする。一方、アクリルスリーブを入れた場合に、アクリルスリーブの内側表面全体に現れる束縛電荷の大きさを Qb とする。
比
X=q0Qb
を既約分数で表したときの分子と分母の和を求めよ。
制約
- a=1.20×10−3m
- c=2.40×10−3m
- b=9.60×10−3m
- L=3.00×10−2m
- V=450V
- εr=3.00
- ε0=8.85×10−12F/m
入力形式
X=Qb/q0 を既約分数 qp で表したとき、p+q を入力せよ。

装置の物理的な見方
ケルビン水滴発電機では、水滴がちぎれる前の水柱が周囲の導体から静電誘導を受けます。水柱が接地されていれば、電荷は接地線を通して移動できるため、水柱表面には誘導リングの電位に応じた自由電荷が現れます。
この問題では、誘導リングが水柱より高い電位にあるので、電場は外側の誘導リングから内側の水柱へ向かいます。したがって、水柱表面に誘導される自由電荷は負です。ただし、問題で扱う q0 や Qb は電荷の大きさなので、以下では線電荷密度の大きさを用いて計算します。
水滴は誘導リングや空間から直接電荷を受け取るのではありません。水柱が接地されている間に、水柱先端付近へ静電誘導によって自由電荷が集まり、水滴がちぎれると、その誘導された電荷を持ち去ると考えます。
また、アクリルスリーブは誘電体なので、内部の分子が電場によって分極します。その結果、アクリルスリーブの内側表面と外側表面に束縛電荷が現れます。
アクリルスリーブを入れたときの誘導電荷
水柱に誘導される自由電荷の線密度の大きさを λ とします。
水柱からアクリルの内面まで、つまり a≤r≤c は空気です。空気の誘電率は ε0 なので、問題文で与えられた電場の式より、この区間の電場の大きさは
Eair(r)=2πε0rλ
です。
電位差の大きさは、電場の大きさを半径方向に足し合わせることで得られます。問題文で与えられた積分公式を用いると、この区間に生じる電位差の大きさは
∫acEair(r)dr=2πε0λ∫acr1dr=2πε0λlnac
です。
一方、アクリル内部、つまり c≤r≤b では、誘電率は ε0εr です。したがって、この区間の電場の大きさは
Ed(r)=2πε0εrrλ
です。よって、この区間に生じる電位差の大きさは
∫cbEd(r)dr=2πε0εrλ∫cbr1dr=2πε0εrλlncb
です。
この二つの区間の電位差の和が、誘導リングと水柱の電位差 V になります。したがって、
V=2πε0λlnac+2πε0εrλlncb
です。これをまとめると、
V=2πε0λ{lnac+εr1lncb}
となります。したがって、アクリルスリーブがあるときの水柱の線電荷密度の大きさは
λ=lnac+εr1lncb2πε0V
です。
水滴は長さ L の水柱部分に誘導されていた自由電荷と同じ大きさの電荷を持って落下するとされているので、その電荷の大きさは
q=λL
です。
アクリルを取り外したときの水滴の電荷
次に、アクリルスリーブを取り外して、半径 a から半径 b までをすべて空気にした場合を考えます。このときの線電荷密度の大きさを λ0 とします。
半径 a から半径 b までがすべて空気なので、電場の大きさは
E0(r)=2πε0rλ0
です。問題文で与えられた積分公式を用いると、
V=∫abE0(r)dr=2πε0λ0∫abr1dr=2πε0λ0lnab
です。したがって、
λ0=lnab2πε0V
です。
このとき水滴が持つ電荷の大きさは
q0=λ0L
となります。
アクリル内面の束縛電荷
誘電体中では、分極 P が電場方向に生じます。線形誘電体では、分極の大きさは
P=ε0(εr−1)Ed
です。
アクリル中の電場の大きさは、すでに求めたように
Ed(r)=2πε0εrrλ
です。
よって、アクリル中の分極の大きさは
P(r)=ε0(εr−1)2πε0εrrλ=εrεr−12πrλ
です。
アクリルの内側表面は半径 c の円筒面です。そこでの分極の大きさは
P(c)=εrεr−12πcλ
です。
束縛電荷の面密度の大きさは、表面に垂直な分極の成分の大きさに等しいので、アクリル内側表面全体に現れる束縛電荷の大きさは
Qb=P(c)⋅2πcL
です。問題文でアクリルスリーブの長さを L と定めているため、ここで表面積 2πcL を使えます。よって、
Qb=εrεr−1λL
となります。
これは、アクリルスリーブが単に電場を弱めるだけでなく、表面に束縛電荷を生じさせることを表しています。
比を計算する
求める量は
X=q0Qb
です。上で得た式を使うと、
X=λ0Lεrεr−1λL=εrεr−1λ0λ
です。
ここで、
λ0λ=lnac+εr1lncblnab
です。
この比を求める段階では、L、V、ε0 は約分されます。これらは個々の電荷量 q、q0、Qb を定めるためには必要ですが、今回の入力値である比 X には残りません。
制約より、
ac=2,cb=4,ab=8
です。したがって、
lnac=ln2
lncb=ln4=2ln2
lnab=ln8=3ln2
です。
また、
εr=3
なので、
λ0λ=ln2+31⋅2ln23ln2
となります。分母を整理すると、
ln2+32ln2=35ln2
です。よって、
λ0λ=35ln23ln2=59
です。
したがって、
X=εrεr−1λ0λ=32⋅59=56
です。
よって、
p=6,q=5
なので、入力すべき自然数は
p+q=11
です。
答えは
11
です。