GSO004 問題3
問題文
上腕二頭筋が発揮する張力と生体力学のモーメント
問題文
人間の前腕(肘から手首まで)を水平に保つ際のモデルを考える。 この問題を通して、日常的に物を持ち上げるとき、我々の筋肉がどれほど巨大な張力を発揮しているかを物理的に解析する。
肘の関節を支点 O とする。前腕は長さ L、質量 M の一様な剛体の棒とみなせるものとし、その重心は支点 O から L/2 の位置にあるとする。 手首(支点 O から距離 L の位置)に質量 m のおもりを持っている。 この前腕を水平に維持するため、上腕二頭筋は支点 O から距離 d の位置において、前腕に対して鉛直上向きに張力 T を及ぼしている。 また、重力加速度の大きさを g とする。
ここで、前腕にはたらく力の作用点は、肘の支点 O から手首に向かって、上腕二頭筋の付着点(距離 d)、前腕の重心(距離 L/2)、手首(距離 L)の順に水平な一直線上に並んでいるものとする。
前腕が水平に静止しているとき、上腕二頭筋が及ぼす張力 T を求めよ。 なお、肘関節が前腕に及ぼす抗力については、支点 O における力であるためモーメントに影響しないものとする。
制約
- 前腕の長さ: L=3.0×10−1 m
- 前腕の質量: M=1.5 kg
- おもりの質量: m=5.0 kg
- 筋肉の付着点の支点からの距離: d=5.0×10−2 m
- 重力加速度の大きさ: g=9.8 m/s2
入力形式
得られた張力 T の値(単位は N)は小数第1位までの有限小数となる。 この T の値を 10 倍した自然数を回答せよ。
解説
生体力学におけるテコの原理
人間の骨格と筋肉の構造は、物理学における「テコ」としてモデル化することができます。 本問では、肘関節を支点とし、前腕を水平な剛体の棒として扱うことで、筋肉が発揮すべき力を力のモーメントのつりあいから導き出します。 特筆すべき点は、筋肉の付着点(力点)が支点から非常に近い位置にあるという人体の構造的特徴です。
剛体にはたらく力の整理
前腕(剛体棒)にはたらく力を整理し、それぞれの作用点と向きを確認します。 問題文の指定通り、作用点はすべて支点 O から手首に向かって一直線上に配置されています。
- 前腕自身の重力: 質量 M の一様な棒であるため、その重心は支点 O から L/2 の位置にあります。はたらく力は鉛直下向きで、大きさは Mg です。
- おもりからの力: 手首の位置(支点 O から距離 L)に質量 m のおもりがあるため、鉛直下向きに mg の力がはたらきます。
- 上腕二頭筋の張力: 支点 O から距離 d の位置で、鉛直上向きに張力 T がはたらいています。
- 肘関節からの抗力: 支点 O において、前腕を支えるために未知の抗力がはたらいていますが、今回は支点 O のまわりの力のモーメントを考えるため、うでの長さが 0 となり、モーメントの式には現れません。
力のモーメントのつりあいの立式
反時計回りを正として、支点 O のまわりの力のモーメントの和が 0 になるというつりあいの式(∑MO=0)を立てます。
-
反時計回りのモーメント(上腕二頭筋の張力によるもの):
Mccw=T⋅d -
時計回りのモーメント(前腕の重力とおもりの重力によるもの):
Mcw=Mg⋅2L+mg⋅L
剛体は静止しているため、反時計回りのモーメントと時計回りのモーメントの大きさは等しくなります。
T⋅d=Mg2L+mgL張力 T の導出と計算
上の式を張力 T について解きます。両辺を d で割ると、以下のようになります。
T=dgL(2M+m)この式に、与えられた制約の数値を代入します。
- L=0.30 m
- M=1.5 kg
- m=5.0 kg
- d=0.050 m
- g=9.8 m/s2
おもり 5.0 kg にはたらく重力は 49 N ですが、上腕二頭筋は約 338 N(およそ 34.5 kg 重)という、おもりの重力の約 7 倍もの巨大な力を発揮していることがわかります。 これは、筋肉の付着点 d が手の位置 L に比べて圧倒的に短いため、テコの原理において「力」の面では著しく不利な構造になっているからです。 その代わり、筋肉がわずかに収縮するだけで手を素早く大きく動かせるという「変位・速度の拡大」のメリットを得ており、これが動物の機敏な動きを可能にしています。
最終的な解答
求められた張力は T=338.1 N です。 入力形式の指示に従い、この値を 10 倍して自然数にします。
338.1×10=3381したがって、求める値は 3381 となります。