問題文
時空コヒーレンスの結合と干渉縞の拡張
問題文
空間的コヒーレンス(光源の有限の大きさ)と時間的コヒーレンス(光源の有限のスペクトル幅)の双方が干渉縞に与える影響を厳密に評価する。
xyz 空間において、z 軸を光軸とする。
z=−l の平面(光源面)上に、空間的に完全にインコヒーレントな線状光源が配置されている。この光源は y 軸方向に広がりを持ち、その時間平均された輝度分布は I(ys)=I0exp(−2σy2ys2) に従う(x 方向は無視できるほど細いとする)。ここで ys は光源面上の y 座標である。
また、光源上の任意の微小領域から放出される光は、中心波数 k0、波数の標準偏差 σk を持つガウス型のパワースペクトル S(k)=S0exp(−2σk2(k−k0)2) を持つものとする。
z=0 の平面には、極めて細い2つのスリットが y=d/2 と y=−d/2 の位置に設けられている(ヤングの二重スリット)。
z=L の平面(スクリーン)上の座標 y=Y における、時間平均された光の強度分布 I(Y) を観測する。
近軸近似(d,σy,Y≪l,L)が成立するものとし、光源からスリット、およびスリットからスクリーンまでの距離を計算する際は、経路差の評価においてはテイラー展開の2次の項までを考慮し、振幅の距離による減衰は無視せよ。
また、k0≫σk であるため、波数 k に関する積分範囲は (−∞,∞) に拡張して近似してよい。
スクリーン上の強度分布 I(Y) は、緩やかに変化する背景強度 Ibg に対して、干渉による変調を受けた形として次のように表される。
I(Y)=Ibg[1+V(Y)cos(Φ(Y))]
ここで、V(Y) は干渉縞のビジビリティ(コントラスト)を表す正の関数、Φ(Y) は干渉縞の位相を表す関数である。
以下の2つの量を導出せよ。
- スクリーン上で局所的な干渉縞の間隔 Λ。ただし、Λ は位相 Φ(Y) が 2π 変化するのに必要な Y の変化量と定義する。
- ビジビリティ V(Y) が最大値をとる位置を Y=0 としたとき、V(Yc)=V(0)/e を満たす位置 Yc (Yc>0)。ただし e はネイピア数である。
計算の際、以下のガウス積分の公式を用いてよい(p の実部は正、q,r は複素数)。
∫−∞∞exp(−px2+qx+r)dx=pπexp(4pq2+r)
制約
各パラメータは以下の値をとる。
- 光源からスリット面までの距離: l=1.0 m
- スリット面からスクリーンまでの距離: L=6.0 m
- スリット間隔: d=2.0×10−3 m
- 光源の輝度分布の広がり: σy=1.0×10−3 m
- 光源の波数スペクトル幅: σk=1.0×106 m−1
- 光源の中心波数: k0=1.0×107 m−1
入力形式
求められた干渉縞の間隔は Λ=Aπ [mm] となり、ビジビリティが 1/e に減衰する位置の2乗は Yc2=B [mm2] となる。ここで A と B は自然数である。
A×B の値を自然数で解答せよ。
1. 微小光源と特定波数成分による干渉の立式
光源は空間的にインコヒーレントであるため、異なる光源点 ys から放出された光の間に干渉性はなく、スクリーン上の強度は各光源点からの光の「強度の和」として表されます。同様に、異なる波数 k の成分も干渉しないため、全強度 I(Y) は ys と k に関する積分となります。
光源点 ys から放出され、波数 k を持つ光がスクリーン上の点 Y に至るまでの2つの経路を考えます。
- 経路1: 光源点 ys→ スリット1 (y1=d/2) → スクリーン点 Y
- 経路2: 光源点 ys→ スリット2 (y2=−d/2) → スクリーン点 Y
それぞれの経路長を D1,D2 とすると、近軸近似(2次のテイラー展開)により以下のようになります。
D1≈[l+2l(d/2−ys)2]+[L+2L(Y−d/2)2]
D2≈[l+2l(−d/2−ys)2]+[L+2L(Y+d/2)2]
これらの経路差 δ(ys,Y)=D2−D1 を計算します。
2l(−d/2−ys)2−(d/2−ys)2=2l2dys=ldys
2L(Y+d/2)2−(Y−d/2)2=2L2dY=LdY
したがって、経路差は次のように表されます。
δ(ys,Y)=d(lys+LY)
この成分がスクリーン上に作る光強度は、位相差 kδ を用いて次のように書けます。
dI(Y;ys,k)∝I(ys)S(k)[1+cos(kδ(ys,Y))]dysdk
2. 全強度の積分と二重ガウス積分
スクリーン上の全強度 I(Y) は、すべての ys と k について積分したものです。
I(Y)=∬I(ys)S(k)dysdk+∬I(ys)S(k)cos(kδ(ys,Y))dysdk
第1項は干渉に寄与しない背景強度 Ibg であり、一定値となります。問題となるのは第2項の干渉項 J(Y) です。
見通しを良くするため、A=ld、B=LdY とおきます。すると δ=Ays+B となります。
干渉項はオイラーの公式を用いて複素積分の実部として評価します。
J(Y)=Re[∬I0S0exp(−2σy2ys2−2σk2(k−k0)2+ik(Ays+B))dysdk]
波数 k に関する積分
被積分関数の k に依存する部分を抽出します。
∫−∞∞exp(−2σk21(k−k0)2+ik(Ays+B))dk
指数部を k について整理し、問題文の公式を適用します。
p=2σk21, q=σk2k0+i(Ays+B), r=−2σk2k02 として計算すると、積分結果の指数部 4pq2+r は以下のようになります。
4pq2+r=21σk2(σk2k0+i(Ays+B))2−2σk2k02=ik0(Ays+B)−21σk2(Ays+B)2
これより、k 積分後の干渉項は次の ys 積分に帰着します。
J(Y)∝Re[∫−∞∞exp(−2σy2ys2−21σk2(Ays+B)2+ik0(Ays+B))dys]
光源座標 ys に関する積分
被積分関数の指数部を ys について降べきの順に整理します。
−21(σy21+σk2A2)ys2+(ik0A−σk2AB)ys+(ik0B−21σk2B2)
再度ガウス積分の公式を適用します。
P=21(σy21+σk2A2)
Q=ik0A−σk2AB
R=ik0B−21σk2B2
積分結果は ∝exp(4PQ2+R) となります。この指数部の実部が lnV(Y) に、虚部が Φ(Y) に対応します。
3. 干渉位相 Φ(Y) と干渉縞の間隔 Λ
指数部の虚部を計算します。
Φ(Y)=Im(4PQ2+R)=2(1/σy2+σk2A2)−2k0σk2A2B+k0B=k0B[1−1/σy2+σk2A2σk2A2]=1+σk2σy2A2k0B
A=d/l、B=dY/L を代入します。
Φ(Y)=Lk0d⋅1+σk2σy2(d/l)21⋅Y
通常(点光源・単色光)の干渉縞の位相は k0dY/L ですが、空間的および時間的コヒーレンスが有限であることによる結合項 ξ=σk2σy2(d/l)2 が分母に現れ、干渉縞の間隔そのものが広がるという非常に興味深い物理現象が示されています。
干渉縞の間隔 Λ は Φ(Λ)=2π より、
Λ=k0d2πL(1+σk2σy2(ld)2)
4. ビジビリティ V(Y) の減衰と Yc の計算
指数部の実部を計算します。
lnV(Y)=Re(4PQ2+R)=2(1/σy2+σk2A2)−k02A2+σk4A2B2−21σk2B2=−2(1+σk2σy2A2)k02A2σy2+σk2B2
V(Y)/V(0)=1/e となる条件は、Y に依存する項(B に依存する項)が −1 になることです。
2(1+σk2σy2A2)σk2Bc2=1⟹2(1+σk2σy2(d/l)2)σk2(dYc/L)2=1
これを Yc2 について解くと、
Yc2=d2σk22L2(1+σk2σy2(ld)2)
5. 数値の代入
与えられた制約数値を代入します。
まず、無次元の結合パラメータ ξ=σk2σy2(d/l)2 を計算します。
ξ=(1.0×106)2×(1.0×10−3)2×(1.02.0×10−3)2=1012×10−6×4.0×10−6=4.0
よって、補正係数は 1+ξ=5.0 となります。
Λ の計算:
Λ=1.0×107×2.0×10−32π×6.0×5.0=2.0×10460π=30π×10−4 m=3π mm
したがって、A=3 です。
Yc2 の計算:
Yc2=(2.0×10−3)2×(1.0×106)22×(6.0)2×5.0=4.0×10672×5.0=4.0×106360=90×10−6 m2=90 mm2
したがって、B=90 です。
求める値は A×B なので、
3×90=270
となります。