問題文
量子ドットに捕捉されたキャリアの軌道角運動量が誘起する磁場
問題文
3次元空間の直交座標系 (x,y,z) において、原点 (0,0,0) に中心を持つ球対称な等方調和振動子ポテンシャル V(r)=21m∗ω2r2 (ただし r=x2+y2+z2)によって形成される半導体量子ドットを考える。
この量子ドット内に、有効質量 m∗ 、電荷 −q (q>0)を持つ1個のキャリア(電子)が閉じ込められている。
この系における1粒子シュレーディンガー方程式の定常状態のうち、主量子数が N=1(基底状態 N=0 の1つ上のエネルギー準位)であり、かつ軌道角運動量の z 成分 L^z の固有値が +ℏ である固有状態を ∣ψ⟩ とする。
この状態 ∣ψ⟩ の波動関数 ψ(r) は、デカルト座標系における3つの第一励起状態(それぞれ x,y,z 方向にのみ1つの励起を持つ状態)の適切な複素線形結合によって構成され、全空間で規格化されているものとする。
このキャリアの存在は、空間に確率流れの密度 j(r) を生じさせる。定常状態における確率流れの密度は、空間的な定常電流密度 i(r)=−qj(r) と見なすことができる。
この空間に分布する定常電流が、ビオ・サバールの法則に従って原点 (0,0,0) に誘起する磁束密度の大きさを B とする。なお、キャリアのスピン磁気モーメントが誘起する磁場への寄与は無視するものとする。
B の値を求め、指定された入力形式に従って回答せよ。
制約
各物理量の値は以下の通りとする。
- キャリアの有効質量: m∗=2.0×10−31 kg
- キャリアの電荷量: q=3.0×10−19 C
- 調和振動子ポテンシャルの角振動数: ω=1.0×1015 rad/s
- 換算プランク定数: ℏ=1.0×10−34 J⋅s
- 真空の透磁率: μ0=4π×10−7 T⋅m/A
入力形式
求めた原点での磁束密度の大きさ B[T] を用いて、
πB2×104
の値を計算し、自然数で回答せよ。
1. 波動関数の決定
3次元等方調和振動子の定常状態シュレーディンガー方程式を解くと、基底状態の空間依存性は e−α2r2/2 に比例する。ここで α=m∗ω/ℏ である。
第一励起状態(主量子数 N=1)はエネルギー準位が縮退しており、デカルト座標系では以下の3つの独立な状態が存在する。
ψx=N1xe−α2r2/2,ψy=N1ye−α2r2/2,ψz=N1ze−α2r2/2
軌道角運動量の z 成分の演算子は L^z=iℏ(x∂y∂−y∂x∂) であり、極座標系 (r,θ,ϕ) では L^z=iℏ∂ϕ∂ と表される。
L^z の固有値が +ℏ となる固有状態を作るため、ψx と ψy の線形結合をとる。極座標変換 x+iy=rsinθeiϕ を用いると、
ψ=21(ψx+iψy)∝(x+iy)e−α2r2/2=rsinθeiϕe−α2r2/2
となる。この状態は L^zψ=+ℏψ を満たす。規格化定数を N とおき、波動関数を以下のように定める。
ψ(r,θ,ϕ)=Nrsinθeiϕe−α2r2/2
2. 規格化定数の導出
全空間での存在確率が1となるように N を定める。
∫∣ψ∣2dV=∫0∞dr∫0πdθ∫02πdϕr2sinθNrsinθeiϕe−α2r2/22=1
∣N∣2(∫0∞r4e−α2r2dr)(∫0πsin3θdθ)(∫02πdϕ)=1
各積分を計算する。ガウス積分の公式より、
∫0∞e−ax2dx=21aπ
これを a について2回偏微分することで次式を得る。
∫0∞x4e−ax2dx=∂a2∂2(2πa−1/2)=83πa−5/2
a=α2 を代入すると、動径方向の積分は 8α53π となる。
角度部分の積分は、
∫0πsin3θdθ=∫0π(1−cos2θ)sinθdθ=[−cosθ+3cos3θ]0π=34
方位角の積分は 2π である。すべてを代入すると、
∣N∣2(8α53π)(34)(2π)=∣N∣2α5π3/2=1⟹∣N∣2=π3/2α5
3. 確率流れの密度と電流密度の導出
確率流れの密度 j は次式で定義される。
j=2m∗iℏ(ψ∗∇ψ−ψ∇ψ∗)=m∗ℏIm(ψ∗∇ψ)
波動関数を ψ=∣ψ∣eiϕ と表すと、∇ψ=(∇∣ψ∣)eiϕ+∣ψ∣(i∇ϕ)eiϕ となる。
したがって ψ∗∇ψ=∣ψ∣∇∣ψ∣+i∣ψ∣2∇ϕ となり、虚数部をとると、
j=m∗ℏ∣ψ∣2∇ϕ
極座標における勾配演算子より ∇ϕ=rsinθ1ϕ^ であるから、
j=m∗ℏrsinθ∣N∣2r2sin2θe−α2r2ϕ^=m∗ℏ∣N∣2rsinθe−α2r2ϕ^
これに電荷 −q を乗じると、軌道運動による定常電流密度 i(r) が得られる。
i=−qj=−qm∗ℏ∣N∣2rsinθe−α2r2ϕ^
4. 原点における磁束密度の計算
ビオ・サバールの法則により、体積要素 dV の電流密度 i が原点に作る微小磁束密度 dB(0) は、源泉から原点への方向ベクトルが −r^ であることに注意して、次のように表される。
dB(0)=4πμ0r2i×(−r^)dV=4πr2μ0(−i×r^)dV
電流は ϕ^ 方向成分のみを持つ(i=iϕϕ^)。外積の公式 ϕ^×r^=θ^ を用いると、
dB(0)=−4πr2μ0iϕθ^dV
極座標の基底ベクトル θ^=cosθcosϕx^+cosθsinϕy^−sinθz^ を ϕ について 0 から 2π まで積分すると、x^ 成分および y^ 成分は消去され、−2πsinθz^ のみが残る。
Bz=∫0∞dr∫0πdθ(−4πr2μ0iϕ)(−2πsinθz^ の係数)r2sinθ
Bz=2μ0∫0∞dr∫0πdθiϕsin2θ
iϕ=−qm∗ℏ∣N∣2rsinθe−α2r2 を代入すると、
Bz=−2m∗μ0qℏ∣N∣2(∫0∞re−α2r2dr)(∫0πsin3θdθ)
動径方向の積分は ∫0∞re−α2r2dr=[−2α21e−α2r2]0∞=2α21 である。これを代入し、磁束密度の大きさ B=∣Bz∣ を計算する。
B=2m∗μ0qℏ∣N∣2(2α21)(34)=3m∗α2μ0qℏ∣N∣2
∣N∣2=π3/2α5 と α3=(ℏm∗ω)3/2 を用いて整理すると、最終的な解析解が得られる。
B=3m∗α2μ0qℏπ3/2α5=3m∗π3/2μ0qℏ(ℏm∗ω)3/2=3π3/2μ0qℏm∗ω3
5. 数値の代入と最終解答
制約として与えられた数値を代入する。まず平方根の中身を計算する。
ℏm∗ω3=1.0×10−342.0×10−31×(1.0×1015)3=1.0×10−342.0×10−31×1.0×1045=2.0×1048
よって ℏm∗ω3=2×1024 となる。次に B を計算する。
B=3π3/2(4π×10−7)×(3.0×10−19)×2×1024=3ππ12π×10−26×2×1024=π42×10−2 [T]
要求されている値は πB2×104 であるため、B を2乗する。
B2=π32×10−4
したがって、
πB2×104=π(π32×10−4)×104=32
以上より、求める自然数は 32 である。