GSO002 問題8
問題文
自己加熱誤差を考慮した測温抵抗体ホイートストンブリッジ
問題文
測温抵抗体(温度によって抵抗値が変化する素子)を用いて液体の温度を測定する場面を考える。 測温抵抗体に電流を流すとジュール熱が発生し、周囲の環境よりも測温抵抗体自身の温度が高くなってしまう「自己加熱誤差」が生じる。本問では、この熱的な効果と回路の振る舞いを組み合わせ、真の液体温度を逆算する。
4つの端子 A,B,C,D を持つホイートストンブリッジ回路がある。各端子間には以下の素子が接続されている。
- 端子 A と B の間:測温抵抗体 R1
- 端子 B と C の間:固定抵抗 R2
- 端子 C と D の間:可変抵抗 R3
- 端子 D と A の間:固定抵抗 R4
端子 A と C の間には、電圧 V0 の直流電源が接続されている(A 側が正極、C 側が負極)。電源の内部抵抗や導線の抵抗は無視できるものとする。 端子 B と D の間には検流計が接続されている。 また、固定抵抗の抵抗値は R2=R4=Rc である。
測温抵抗体 R1 は、自身の温度を Ts としたとき、その抵抗値が
R1(Ts)=R0{1+α(Ts−T0)}で表される。ここで、T0 は基準温度、R0 は基準温度における抵抗値、α は抵抗温度係数である。 また、測温抵抗体 R1 で単位時間あたりに発生するジュール熱を P とし、周囲の液体の温度を Tf とすると、ニュートンの冷却の法則に従い、熱平衡状態(定常状態)において
P=K(Ts−Tf)が成り立つ。ここで、K は測温抵抗体から液体への熱の逃げやすさを表す熱散逸定数である。
測温抵抗体 R1 を十分に多量の液体に浸し、回路に電流を流して十分に時間が経過し定常状態となった。その後、可変抵抗 R3 の抵抗値を調整したところ、R3=Rx のときに検流計に流れる電流が 0 になり、ブリッジが平衡した。 このときの真の液体の温度 Tf を導出せよ。
制約
- 直流電源の電圧: V0=14V
- 固定抵抗の抵抗値: Rc=120Ω
- 平衡時の可変抵抗の抵抗値: Rx=90Ω
- 基準温度: T0=300K
- 基準温度における測温抵抗体の抵抗値: R0=100Ω
- 測温抵抗体の抵抗温度係数: α=5.0×10−3K−1
- 測温抵抗体から液体への熱散逸定数: K=8.0×10−2W/K
入力形式
液体の温度 Tf [K] の値を、単位を除いた自然数で回答せよ。
解説
1. 測温抵抗体 R1 の抵抗値の導出
ブリッジ回路が平衡しているとき、端子 B と端子 D の間に接続された検流計に電流は流れないため、端子 B と D の電位は等しい。 ホイートストンブリッジの平衡条件より、向かい合う抵抗の積は等しくなるため、
R1⋅R3=R2⋅R4が成り立つ。これに R2=R4=Rc、R3=Rx を代入すると、
R1⋅Rx=Rc2 R1=RxRc2与えられた制約数値を代入すると、定常状態における測温抵抗体の抵抗値が求まる。
R1=901202=9014400=160Ω2. 測温抵抗体の温度 Ts の導出
測温抵抗体の抵抗値と温度の関係式
R1=R0{1+α(Ts−T0)}より、素子自身の温度 Ts について解くと、
Ts=T0+αR0R1−R0各数値を代入する。
Ts=300+5.0×10−3×100160−100=300+0.5060=300+120=420Kこれが、電流が流れて自己加熱を起こしている状態での測温抵抗体の温度である。
3. ジュール熱 P の導出
ブリッジ平衡時、端子 B から D へは電流が分岐しないため、端子 A から B を通って C へ流れる電流 I1 は、R1 と R2 の直列回路に流れる電流とみなすことができる。 オームの法則より、
I1=R1+R2V0=R1+RcV0数値を代入すると、
I1=160+12014=28014=0.050Aこの電流により、測温抵抗体 R1 で発生する単位時間あたりのジュール熱 P は、
P=R1I12数値を代入すると、
P=160×(0.050)2=160×0.0025=0.40W4. 液体の温度 Tf の導出
熱平衡状態において、測温抵抗体で発生するジュール熱はすべて周囲の液体へ逃げている。 ニュートンの冷却の法則
P=K(Ts−Tf)より、求めたい液体の温度 Tf について解くと、
Tf=Ts−KP数値を代入すると、
Tf=420−8.0×10−20.40=420−0.0800.40=420−5.0=415K答え: 415
【発展コラム】 この問題で確認できたように、測温抵抗体自身の温度は 420K に達していましたが、実際の液体の温度は 415K であり、5K もの「自己加熱誤差」が生じていました。実用的な精密温度計の設計においては、センサに流す電流を極力小さくする、あるいはパルス状に電圧を印加することで、この自己加熱による測定誤差を最小限に抑える工夫がなされています。