問題文
剛体の自由回転とジャニベコフ効果の反転周期
剛体の自由回転とジャニベコフ効果の反転周期
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国際宇宙ステーションのような無重力・真空空間において、T字型のレンチなどの非対称な剛体を回転させると、特定の軸周りの回転が不安定になり、定期的に表裏を反転する現象が観察される。これは「ジャニベコフ効果(Dzhanibekov effect)」または「テニスラケットの定理」として知られている。
剛体の重心を原点とし、主慣性軸に沿って剛体に固定された直交座標系 O−123 をとる。主慣性モーメントをそれぞれ I1,I2,I3 とし、I1>I2>I3>0 であるとする。重心は固定されており、外力によるトルクは一切働かないものとする。
時刻 t=0 において、この剛体は中間軸(主軸2)の周りに角速度 ω0>0 で回転しており、さらに主軸3の周りに微小な角速度 ϵ (0<ϵ≪ω0)が与えられていたとする。主軸1の周りの初期角速度は 0 である。
各主軸周りの角速度を ω1(t),ω2(t),ω3(t) とする。
ω2(t) は最初 ω0 から減少し、やがて符号を変えて −ω0 に達し、再び ω0 に戻るという周期的な振る舞い(フリップ)を示す。
時刻 t=0 から、初めて ω2(t) が −ω0 に達するまでの時間 T を求めたい。
微小量 ϵ の高次項を適切に近似し、第一種完全楕円積分の漸近公式を用いて T を求めよ。
なお、第一種完全楕円積分 K(m)=∫0π/21−msin2ϕdϕ は、m→1−0 のとき、
K(m)≈21ln(1−m16)
と近似できる。
制約
- I1=5 kg⋅m2
- I2=4 kg⋅m2
- I3=2 kg⋅m2
- ω0=10 rad/s
- ϵ=1.0×10−4 rad/s
入力形式
反転時間 T [s] は、与えられた定数を用いて計算すると
T=BAln(DC×1010)
の形で表される。
ただし、A は平方因子を持たない自然数、B は自然数、分数 C/D は互いに素な自然数からなる既約分数である。
自然数 A+B+C+D の値を回答せよ。
1. オイラーの方程式と保存則
無重力・無トルクの空間における剛体の回転運動は、以下のオイラーの方程式に従う。
I1ω˙1I2ω˙2I3ω˙3=(I2−I3)ω2ω3=(I3−I1)ω3ω1=(I1−I2)ω1ω2
外力が働かないため、回転運動のエネルギー E と角運動量の大きさ L は保存される。初期条件より、これらの保存量は次のように表される。
2EL2=I1ω12+I2ω22+I3ω32=I2ω02+I3ϵ2=I12ω12+I22ω22+I32ω32=I22ω02+I32ϵ2
2. 角速度 ω1,ω3 の消去
ω2 の挙動を調べるため、保存則から ω12 と ω32 を ω22 で表す。
エネルギーと角運動量の式を連立させて ω12 を消去する。エネルギーの式を I1 倍して角運動量の式を引くと、
(I1I3−I32)ω32=2EI1−L2−I2(I1−I2)ω22
これに 2E と L2 の初期値を代入して整理すると、
I3(I1−I3)ω32=I1(I2ω02+I3ϵ2)−(I22ω02+I32ϵ2)−I2(I1−I2)ω22=I2(I1−I2)(ω02−ω22)+I3(I1−I3)ϵ2
したがって、
ω32=I3(I1−I3)I2(I1−I2)(ω02−ω22)+ϵ2
同様に、ω32 を消去して ω12 を求めると、
ω12=I1(I1−I3)I2(I2−I3)(ω02−ω22)
となる。
3. 微分方程式の導出と変数分離
第2のオイラー方程式から、
ω˙2=I2I3−I1ω1ω3=−I2I1−I3ω1ω3
ω2 が ω0 から 0 へ減少する過程では、初期微小変動によって ω1>0,ω3>0 となり、ω˙2<0 が維持される。先ほど求めた ω12,ω32 の平方根を代入する。
ω˙2=−I2I1−I3I1(I1−I3)I2(I2−I3)(ω02−ω22)I3(I1−I3)I2(I1−I2)(ω02−ω22)+ϵ2
係数を整理するため、ルートの外の項を中に入れて計算すると、
ω˙2=−I1I3(I1−I2)(I2−I3)(ω02−ω22){ω02−ω22+I2(I1−I2)I3(I1−I3)ϵ2}
ここで、定数を次のように置く。
α=I1I3(I1−I2)(I2−I3),k2=I2(I1−I2)I3(I1−I3)ϵ2
これにより、微分方程式は非常に簡潔な形になる。
dtdω2=−α(ω02−ω22)(ω02−ω22+k2)
4. 楕円積分への帰着と反転時間の計算
ω2 が ω0 から 0 に達するまでの時間を T1/2 とする。変数分離して積分すると、
T1/2=∫0ω0α(ω02−ω22)(ω02−ω22+k2)dω2
積分を実行するため ω2=ω0cosθ と置換する。dω2=−ω0sinθdθ であり、積分範囲は 0 から π/2 となる。
T1/2=α1∫0π/2ω02sin2θ(ω02sin2θ+k2)ω0sinθdθ=α1∫0π/2ω02sin2θ+k2dθ
sin2θ=1−cos2θ より、
T1/2=α1∫0π/2ω02+k2−ω02cos2θdθ
さらに ϕ=π/2−θ と変数変換を行うと、cos2θ=sin2ϕ となり、
T1/2=αω02+k21∫0π/21−ω02+k2ω02sin2ϕdϕ
これはパラメタ m=ω02+k2ω02 を持つ第一種完全楕円積分 K(m) に帰着する。
反転時間 T は ω0→−ω0 までの時間であり、対称性から T=2T1/2 となる。
T=αω02+k22K(m)
5. 漸近公式の適用と最終解答
ϵ≪ω0 より k2≪ω02 であるため、m は 1 に極めて近い。ここで漸近公式 K(m)≈21ln(1−m16) を用いる。
1−m=1−ω02+k2ω02=ω02+k2k2≈ω02k2
また分母の ω02+k2≈ω0 と近似できる。よって、
T≈αω02×21ln(k216ω02)=αω01ln(k216ω02)
制約条件の数値を代入する。
- α=5×2(5−4)(4−2)=51
- k2=4(5−4)2(5−2)ϵ2=46ϵ2=23ϵ2
- ω0=10⟹ω02=100
- ϵ=10−4⟹ϵ2=10−8
係数部分は、
αω01=105
対数の中身は、
k216ω02=23×10−816×100=33200×108=332×1010
したがって、求める反転時間 T は
T=105ln(332×1010)
これは指定された形式 T=BAln(DC×1010) に一致する。
各変数は A=5,B=10,C=32,D=3 となる。
求める値は A+B+C+D であるから、
5+10+32+3=50
最終解答: 50