GSO002 問題15
問題文
電磁誘導とLC共振の結合における磁気エネルギーの変遷
問題文
水平面上に、間隔 d で平行に固定された十分に長い2本の金属レールがある。手前側のレールをP、奥側のレールをQとする。 レールPの左端には電気容量 C のコンデンサーの一方の極板が接続されており、もう一方の極板からスイッチ、自己インダクタンス L のコイルを経て、レールQの左端へと直列に導線で接続されている。 質量 m の金属棒が、2本のレールに垂直に渡されるように置かれている。金属棒はレールと電気的に接触を保ちながら、摩擦なく滑らかに動くことができる。 系全体には、鉛直下向きに磁束密度 B の一様な磁場が印加されている。金属棒、レール、導線、コイルの電気抵抗はすべて無視できるものとする。
はじめ、金属棒は静止しており、スイッチを開いた状態でコンデンサーに Q0 の電荷を蓄えさせた。このとき、レールP側に接続された極板が正に帯電していた。 時刻 t=0 にスイッチを静かに閉じると、コンデンサーの放電に伴って金属棒にアンペール力が働き、金属棒はレール上を動き始めた。
その後の運動において、コイルに蓄えられる磁気エネルギーは時間とともに変動する。 運動の過程でコイルに蓄えられる磁気エネルギーの最大値を Umax とする。Umax をミリジュール (mJ) 単位で表した数値を求めよ。
制約
- 金属棒の質量 m=0.070 kg
- レール間隔 d=0.50 m
- 磁束密度 B=2.0 T
- コンデンサーの電気容量 C=0.040 F
- コイルの自己インダクタンス L=0.15 H
- 初期の電荷 Q0=0.22 C
入力形式
Umax の値を自然数で回答せよ。
解説
この問題は、一見すると金属棒の運動とLC回路の振動が複雑に絡み合う連成の微分方程式を解かなければならないように見えます。しかし、高校物理の範囲である「力積と運動量の関係」と「エネルギー保存則」を正しく立式し組み合わせることで、時間 t を追うことなく最大値をエレガントに導き出すことができます。
1. 電流と金属棒の速度の基本関係
時刻 t におけるコンデンサーのP側極板の電荷を q とする。初期条件より q(0)=Q0>0 である。 回路を「P側極板 → レールP → 金属棒 → レールQ → コイル → スイッチ → もう一方の極板」の向き(時計回り)に流れる電流を i とすると、電流は電荷の減少速度に等しいため、i=−dtdq と表される。
金属棒には手前(P)から奥(Q)へ向かって電流 i が流れる。磁場は鉛直下向きなので、フレミングの左手の法則により、金属棒は左向きに大きさ F=idB のアンペール力を受ける。 左向きを正とし、金属棒の速度を v とすると、運動方程式は以下のようになる。
mdtdv=idB=−dtdqdB2. 力積と運動量・電荷の保存関係
上記の運動方程式の両辺を、時刻 t=0 から任意の時刻 t まで時間積分する。これは金属棒が受けた力積と運動量の変化の関係を表す。
∫0tmdtdvdt=∫0t(−dtdqdB)dt m[v]0t=−dB[q]Q0q初期状態において金属棒は静止している(v(0)=0)ため、以下の極めて重要な関係式が得られる。
mv=dB(Q0−q)⋯(1)この式は、「コンデンサーから失われた電荷量 (Q0−q) が、そのまま金属棒の運動量 mv に比例して変換される」という、この系の根幹をなす物理的拘束条件を示している。
3. エネルギー保存則と変数の消去
回路全体に電気抵抗が存在しないため、系の力学的エネルギーと電磁気的エネルギーの和は常に一定に保たれる。 初期状態 (t=0) では、コンデンサーにのみエネルギーが蓄えられているため、全エネルギー E0 は以下の通りである。
E0=2CQ02任意の時刻 t において、エネルギーは「コンデンサーの静電エネルギー」「コイルの磁気エネルギー」「金属棒の運動エネルギー」の3つに分配される。
2CQ02=2Cq2+21Li2+21mv2ここで、コイルの磁気エネルギーを UL=21Li2 とする。求めたいのはこの UL の最大値である。 式を変形して UL について解き、さらに式(1)から導かれる v=mdB(Q0−q) を代入して速度 v を消去する。
UL=2CQ02−(2Cq2+21m(mdB(Q0−q))2) UL=2CQ02−(2C1q2+2m(dB)2(Q0−q)2)⋯(2)4. 有効ポテンシャルの最小化による最大エネルギーの導出
式(2)より、全エネルギー 2CQ02 から、右辺括弧内の q に依存するエネルギー関数(これを有効ポテンシャル f(q) と呼ぶ)を引いた残りが、コイルのエネルギー UL となる。
f(q)=2C1q2+2m(dB)2(Q0−q)2UL が最大となるのは、この f(q) が最小となるときである。f(q) は q についての下に凸な二次関数であるため、微分(あるいは平方完成)によって最小値を求めることができる。 f(q) を q で微分して 0 となる条件を探す。
f′(q)=Cq−m(dB)2(Q0−q)=0 Cq+m(dB)2q=m(dB)2Q0両辺に mC を掛けて整理する。
mq+C(dB)2q=C(dB)2Q0 q=m+C(dB)2C(dB)2Q0⋯(3)このとき、(Q0−q) は以下のようになる。
Q0−q=Q0−m+C(dB)2C(dB)2Q0=m+C(dB)2mQ0⋯(4)式(3)および式(4)を f(q) に代入して最小値 fmin を求める。
fmin=2C1(m+C(dB)2C(dB)2Q0)2+2m(dB)2(m+C(dB)2mQ0)2 fmin=2(m+C(dB)2)2Q02(CC2(dB)4+mm2(dB)2) fmin=2(m+C(dB)2)2Q02(C(dB)4+m(dB)2)=2(m+C(dB)2)2Q02(dB)2(C(dB)2+m) fmin=2(m+C(dB)2)Q02(dB)2=2CQ02⋅m+C(dB)2C(dB)2=E0⋅m+C(dB)2C(dB)2したがって、コイルの最大エネルギー Umax は、
Umax=E0−fmin=E0(1−m+C(dB)2C(dB)2)=E0(m+C(dB)2m)という、初期エネルギー E0 に質量と「等価質量 C(dB)2」の比率を掛けた極めて美しい結論が得られる。なお、この計算過程においてコイルの自己インダクタンス L は一切登場せず、最大値には影響を与えないことがわかる(L は最大値に達するまでの「時間」を決定するパラメータに過ぎない)。
5. 制約の代入と数値計算
導出された公式に、制約の数値を代入していく。 まず、初期エネルギー E0 を計算する。
E0=2CQ02=2×0.040(0.22)2=0.0800.0484=0.605 J次に、等価質量 C(dB)2 を計算する。
dB=0.50×2.0=1.0 T⋅m C(dB)2=0.040×(1.0)2=0.040 kg質量の比率部分を計算する。
m+C(dB)2m=0.070+0.0400.070=0.1100.070=117よって、最大エネルギー Umax は、
Umax=0.605×117=0.055×7=0.385 J解答はミリジュール (mJ) 単位であるため、1000倍して単位を変換する。
Umax=385 mJしたがって、求める自然数は 385 である。