GSO002 問題13
問題文
星のワット・ガバナー:回転系における非線形微小振動の解析
問題文
ある惑星の重力加速度の大きさを g とする。 鉛直方向に固定された細い回転軸がある。この回転軸上の点Oには滑らかなヒンジがあり、そこから長さ l の質量が無視できる剛体棒が2本、それぞれ質点とみなせる小球A, B(ともに質量 m)につながれている。 さらに、小球A, Bから長さ l の質量が無視できる剛体棒がそれぞれ伸びており、それらの他端は共通の滑らかなヒンジでスリーブC(質点とみなし、質量を M とする)につながれている。
スリーブCは回転軸上を摩擦なく上下に滑ることができる。小球A, Bは常に回転軸を挟んで対称な位置にある。点O, A, C, Bを頂点とする四角形は常にひし形をなし、これら4点は回転軸を含む同一平面内にあり、その平面ごと回転軸のまわりを回転する。
今、装置全体を回転軸のまわりに一定の角速度 ω で強制的に回転させ続けたところ、スリーブCは点Oから一定の距離 z0 の位置で回転系から見て静止した(これを定常状態と呼ぶ)。このとき、各棒が回転軸となす角を θ0 (0<θ0<π/2) とする。
その後、回転系においてスリーブCに鉛直方向の微小な変位を与え、静かに手を放したところ、スリーブCは定常位置を中心に微小振動を行った。 この微小振動の周期 T を求めよ。 なお、空気抵抗や各ヒンジの摩擦は一切無視できるものとする。
制約
- 重力加速度の大きさ: g=12 m/s2
- 小球A, Bの質量: m=4 kg
- スリーブCの質量: M=3 kg
- 剛体棒の長さ: l=1.4 m
- 回転の角速度: ω=5 rad/s
入力形式
微小振動の周期 T は、互いに素な自然数 A,B を用いて T=BAπ [s] と表せる。 100A+B の値を求め、自然数で回答せよ。
解説
本問は、蒸気機関の出力調整などに用いられた実在の機械要素「遠心調速機(ワット・ガバナー)」をモデル化したものです。系全体の角速度 ω が一定に保たれているため、モーター等の外部から未知のトルクが供給されており、静止系での力学的エネルギーは保存しません。このような場合は、系と共に回転する座標系(回転系)において、慣性力(遠心力)を考慮したエネルギー保存則を立式するのが定石です。また、強制回転によるコリオリの力は回転方向に働き、運動を回転面内に拘束する抗力と釣り合うため、回転面内のエネルギー計算には影響しません。
1. 回転系における力学的エネルギーの立式
点Oを原点とし、鉛直下向きに z 軸をとります。任意の時刻における剛体棒と z 軸のなす角を θ(t) とします。 回転系から見たとき、各物体の速度は θ の時間変化による成分のみとなります。 小球A, Bの z 軸からの距離は lsinθ、原点からの深さは lcosθ なので、回転系での速さ vm′ は
vm′=lθ˙四角形OACBはひし形であるため、スリーブCの深さは常に 2lcosθ となります。回転系での速さ vM′ はこれを時間微分して絶対値をとることで得られます。
vM′=dtd(2lcosθ)=2lθ˙sinθしたがって、回転系における系の運動エネルギー K′ は
K′=2×21m(vm′)2+21M(vM′)2=ml2θ˙2+2Ml2sin2θ⋅θ˙2=(m+2Msin2θ)l2θ˙2次に、ポテンシャルエネルギー Ueff(θ) を考えます。これは重力による位置エネルギー Ug と、遠心力による位置エネルギー Ucf の和です。 重力ポテンシャル(基準をOとする)は
Ug=2×(−mglcosθ)+1×(−Mg2lcosθ)=−2(m+M)glcosθ遠心力は小球A, Bにのみ水平外向きに働き(スリーブCは回転軸上にあるため遠心力はゼロ)、その大きさは中心からの距離 r=lsinθ を用いて mrω2 と表せます。これを r について積分すると、1つの小球あたりの遠心力ポテンシャルが得られます。
∫0r(−mr′ω2)dr′=−21mr2ω2=−21ml2ω2sin2θ小球は2つあるため、系全体の遠心力ポテンシャル Ucf は
Ucf=−ml2ω2sin2θ以上より、回転系における有効ポテンシャル Ueff(θ) は
Ueff(θ)=−2(m+M)glcosθ−ml2ω2sin2θ回転系における力学的エネルギー E′ は保存するため、
E′=(m+2Msin2θ)l2θ˙2+Ueff(θ)=const⋯(1)2. 定常状態の条件
定常状態 θ=θ0 では、スリーブが静止しているため θ˙=0,θ¨=0 となります。これは有効ポテンシャル Ueff(θ) が極小値をとる条件 Ueff′(θ0)=0 と同値です。
Ueff′(θ)=2(m+M)glsinθ−2ml2ω2sinθcosθθ0=0 より sinθ0=0 で割ると、
cosθ0=mlω2(m+M)g与えられた数値を代入します。
cosθ0=4×1.4×52(4+3)×12=14084=53=0.6これにより、定常状態における角度は cosθ0=3/5,sinθ0=4/5 と決定されます。
3. 微小振動の運動方程式と周期の導出
式(1)の両辺を時間 t で微分します。
2(m+2Msin2θ)l2θ˙θ¨+4Ml2sinθcosθ⋅θ˙3+Ueff′(θ)θ˙=0θ˙=0 で割り、θ=θ0+Δθ (Δθ は微小量)として線形近似を行います。微小振動において θ˙ は微小量であるため、θ˙2 に比例する第2項は無視できます。また、Ueff′(θ) を θ0 の周りでテイラー展開すると Ueff′(θ0)=0 より Ueff′(θ)≈Ueff′′(θ0)Δθ となります。 したがって、近似された運動方程式は
2(m+2Msin2θ0)l2Δθ¨=−Ueff′′(θ0)Δθ⋯(2)Ueff′′(θ0) を計算します。
Ueff′′(θ)=2(m+M)glcosθ−2ml2ω2(cos2θ−sin2θ)定常状態の条件より 2(m+M)glcosθ0=2ml2ω2cos2θ0 が成り立つため、これを第1項に代入すると
Ueff′′(θ0)=2ml2ω2cos2θ0−2ml2ω2(cos2θ0−sin2θ0)=2ml2ω2sin2θ0これを式(2)に代入して整理すると、微小振動の角振動数 ωosc は以下のようになります。
ωosc2=2(m+2Msin2θ0)l22ml2ω2sin2θ0=m+2Msin2θ0mω2sin2θ0各数値を代入して ωosc を求めます。
- 分子: 4×52×(54)2=100×2516=64
- 分母: 4+2×3×(54)2=4+6×2516=4+2596=25196
よって ωosc=720 rad/s となります。 微小振動の周期 T は
T=ωosc2π=2π×207=107π [s]求める形式は T=BAπ であり、A=7,B=10 となります(7と10は互いに素)。 100A+B=100×7+10=710
最終的な答えは 710 となります。