GSO002 問題12
問題文
非線形な静電気力に抗する可動極板の最大変位とエネルギー保存則
問題文
なめらかで水平な絶縁体の床の上に、面積 S の薄い金属板からなる極板Aと極板Bが、互いに平行に鉛直に立てられている。 極板Aは床に固定されている。 極板Bは質量 m であり、床に水平に置かれたばね定数 k の絶縁体の軽いばねの一端に取り付けられている。ばねのもう一端は壁に固定されており、極板Bは極板Aと平行を保ったまま、ばねの軸に沿って水平方向にのみ摩擦なく滑らかに移動できる。 ばねが自然長のとき、極板Aと極板Bの距離は d0 である。 極板間の空間の誘電率を ε とし、極板の端における電場の乱れ(エッジエフェクト)は無視できるものとする。 極板Aと極板Bは、スイッチと起電力 V の理想的な直流電源と直列に接続されている。回路の電気抵抗および自己インダクタンスは極めて小さく無視できるものとし、極板の運動に伴う電磁波の放射やジュール熱の発生はないものとする。
初期状態として、極板Bをばねの自然長の位置(極板間距離 d0)で手で保持し、スイッチを閉じて十分に時間が経過した。 その後、スイッチを閉じたまま静かに極板Bから手を離すと、極板Bは極板Aからの静電気力(引力)に引かれて運動を始めた。 極板Bが極板Aに最も近づいたときの極板間距離を dmin とする。 dmin の値を求めよ。
制約
- 初期極板間距離: d0=1.7×10−2 m
- ばね定数: k=1.0×101 N/m
- 誘電率: ε=8.5×10−12 F/m
- 極板の面積: S=2.0 m2
- 直流電源の起電力: V=4.0×102 V
- 極板Bの質量: m=5.0×10−1 kg
入力形式
極板間距離の最小値 dmin をミリメートル (mm) 単位で求め、その数値を自然数で回答せよ。
解説
1. 回路におけるエネルギー保存則の立式
極板Bから手を離した後、極板Bはコンデンサーの極板間引力によって極板Aに引き寄せられ、ばねを伸ばしながら運動します。 この過程で極板間距離 d が変化するため、コンデンサーの静電容量 C=dεS も変化します。 電源が接続されているため、極板間の電位差は常に V で一定です。静電容量が変化するとコンデンサーに蓄えられる電荷 Q=CV が変化し、電源から新たに電荷が供給(または吸収)されます。このとき、電池は仕事を行います。
系全体のエネルギー保存則を考えます。手を離した直後(位置 d=d0)と、極板Bが最も極板Aに近づいて一瞬静止した瞬間(位置 d=dmin)を比較します。どちらの瞬間も極板Bの速度は 0 であるため、運動エネルギーの変化は 0 です。 したがって、電池がした仕事 Wbatt は、ばねの弾性エネルギーの増加量 ΔUspring と、コンデンサーの静電エネルギーの増加量 ΔUelec の和に等しくなります。
Wbatt=ΔUspring+ΔUelec(※本問の条件下では、回路の抵抗やインダクタンスを無視できるほどゆっくりとした力学的変化にエネルギーが変換されるため、ジュール熱によるエネルギー損失は発生しません。)
2. 各エネルギー変化の定式化
初期状態(距離 d0)の静電容量を C0、最も近づいた状態(距離 dmin)の静電容量を Cmin とします。
C0=d0εS,Cmin=dminεSコンデンサーに蓄えられる電荷は Q0=C0V から Qmin=CminV へと変化します。 この間に電池が供給した電荷量は ΔQ=Qmin−Q0=(Cmin−C0)V ですから、電池がした仕事は以下のようになります。
Wbatt=VΔQ=(Cmin−C0)V2静電エネルギーの変化量は以下の通りです。
ΔUelec=21CminV2−21C0V2=21(Cmin−C0)V2ばねの自然長からの伸びは d0−dmin となるため、弾性エネルギーの変化量は以下の通りです。
ΔUspring=21k(d0−dmin)2これらをエネルギー保存則の式に代入します。
(Cmin−C0)V2=21k(d0−dmin)2+21(Cmin−C0)V2整理すると、以下の関係が得られます。
21k(d0−dmin)2=21(Cmin−C0)V2これは「電圧一定のもとで極板が移動するとき、静電気力がする仕事(右辺)が、すべて力学的エネルギー(左辺:今回はばねの弾性エネルギー)に変換される」ことを意味しています。
3. dmin に関する二次方程式の導出
静電容量の式を代入し、さらに整理を進めます。
k(d0−dmin)2=(dminεS−d0εS)V2 k(d0−dmin)2=εSV2(d0dmind0−dmin)極板Bは運動しているため、dmin=d0 です。したがって両辺を (d0−dmin) で割ることができます。
k(d0−dmin)=d0dminεSV2両辺に d0dmin を掛けます。
kd0dmin(d0−dmin)=εSV2これを展開して dmin についての二次方程式の形に整理します。
dmin2−d0dmin+kd0εSV2=0二次方程式の解の公式より、極板が静止する位置 d は以下の2つの解を持ちます。
d=2d0±d02−4kd0εSV2極板Bは d0 の位置から引力によって引かれ、極板間距離 d が減少していく運動をします。最初に速度が 0 になる点(折り返し点)が dmin となるため、2つの解のうち d0 に近い方(すなわち大きい方の解)が物理的に妥当な dmin となります。
dmin=2d0+d02−4kd0εSV24. 数値の代入と計算
制約として与えられた数値を各項に代入して計算します。 まず、二次方程式の定数項にあたる部分を計算します。
εSV2=(8.5×10−12 F/m)×(2.0 m2)×(4.0×102 V)2 =17.0×10−12×1.6×105=27.2×10−7=2.72×10−6 J m kd0=(1.0×101 N/m)×(1.7×10−2 m)=0.17 Nしたがって、
4kd0εSV2=4×0.172.72×10−6=4×16×10−6=64×10−6=0.64×10−4 m2次に、d02 を計算します。
d02=(1.7×10−2)2=2.89×10−4 m2ルートの中身(判別式 D)を求めます。
D=d02−4kd0εSV2=2.89×10−4−0.64×10−4=2.25×10−4 m2平方根をとると、
D=2.25×10−4=1.5×10−2 m最後に dmin を計算します。
dmin=21.7×10−2+1.5×10−2=23.2×10−2=1.6×10−2 mこれをミリメートル (mm) 単位に変換すると、
1.6×10−2 m=16×10−3 m=16 mmよって、求める自然数は 16 となります。