GEO004 問題3
問題文
燃料ゼロの恒星脱出 ― 惑星スイングバイの限界
問題文
恒星の周囲を、巨大惑星が半径 a の円軌道で公転している。惑星の公転速度を V とする。恒星の質量は惑星の質量に比べて十分大きいものとする。
ある探査機が、この惑星に接近している。惑星の重力の影響が無視できる進入前の領域では、探査機の恒星に対する速度は、大きさが V で、惑星の公転速度と正反対の向きである。
探査機はエンジンを一切使用せず、惑星の重力によって進行方向を変えられ、再び惑星から遠ざかっていく。この現象を 重力アシスト(スイングバイ) という。
以下の近似モデルを用いる。
- 探査機の質量は惑星の質量に比べて無視できる。
- 惑星近傍では恒星の重力を無視し、探査機と惑星の二体問題として扱う。惑星から十分離れた進入・離脱領域では惑星の重力を無視でき、これらの領域における探査機の速度は、いずれも恒星から距離 a の位置での速度として扱う。
- 重力アシスト中の惑星の公転速度ベクトルは一定とみなす。
- すべての運動は同一平面内で起こり、探査機に推進力や抵抗力は働かない。
- 惑星は半径 R の球体であり、探査機は惑星の表面に衝突しない。
惑星から見た探査機の軌道は双曲線となる。惑星の重力が無視できるほど遠方での進入時と離脱時の相対速度は、大きさが等しく、ともに u である。この2つの速度ベクトルのなす角を偏向角 δ(0<δ<π)とする。
惑星の重力による双曲線軌道について、次の公式が成り立つことを用いてよい。
sin2δ=μ+rminu2μここで、μ=GM は惑星の重力パラメータ、rmin は探査機と惑星中心との最接近距離である。
このとき、探査機が重力アシスト後に恒星に対して非束縛軌道に入り、恒星から脱出できるための、最接近距離 rmin の最大値 rmax を求めよ。
ただし、恒星から脱出できる条件は、重力アシスト後の探査機の恒星に対する力学的エネルギーが0以上となることとする。
制約
- 惑星の公転速度:V=1.3×104m/s
- 惑星の重力パラメータ:μ=1.27×1017m3/s2
- 惑星の半径:R=7×107m
入力形式
求めた rmax を惑星の半径 R で割った値を、次の形で表す。
Rrmax=4×7×132A2−Bここで A,B は正の整数とする。分母は指定された形のままとし、約分は行わない。
A+B の値を自然数で答えよ。
解説
方針
この問題の核心は、惑星から見た探査機の速さは変化しなくても、恒星から見た速さは変化するという点です。
まず、惑星の円運動から恒星の重力パラメータを消去し、恒星からの脱出条件を求めます。
次に、惑星から見た探査機の速度ベクトルの変化を利用して、重力アシストによる力学的エネルギーの増加量を計算します。
最後に、脱出に必要な最小の偏向角を求め、双曲線軌道の公式から最大の最接近距離を決定します。
計算
1. 恒星からの脱出条件
恒星の質量を M⋆ とします。
惑星は半径 a の円軌道を速さ V で公転しているため、万有引力が向心力となることから、
a2GM⋆=aV2したがって、
GM⋆=aV2が成り立ちます。
恒星から距離 a の位置で、探査機の恒星に対する速さを v とすると、単位質量あたりの力学的エネルギー ε は、
ε=21v2−aGM⋆です。
先ほどの関係を代入すると、
ε=21v2−V2となります。
恒星から脱出するためには ε≥0 が必要なので、
v2≥2V2を得ます。
2. 重力アシストによる速度の変化
惑星の公転方向を x 軸の正方向とします。
惑星の恒星に対する速度ベクトルは、
V=(V,0)です。
一方、探査機の恒星に対する進入速度は、
vin=(−V,0)なので、惑星に対する相対速度は、
uin=vin−V=(−2V,0)となります。
よって、
u=2Vです。
探査機は惑星の重力によって偏向角 δ だけ向きを変えます。
惑星から見た速さは保存されるため、離脱時の相対速度は、
uout=(−2Vcosδ, ±2Vsinδ)と表せます。
これに惑星の公転速度を加えると、恒星から見た探査機の離脱速度は、
vout=(V−2Vcosδ, ±2Vsinδ)となります。
したがって、離脱速度の大きさの2乗は、
vout2=(V−2Vcosδ)2+(2Vsinδ)2=V2(1−4cosδ+4cos2δ+4sin2δ)=V2(5−4cosδ)です。
3. 脱出に必要な偏向角
恒星から脱出するためには、
vout2≥2V2であればよいので、
V2(5−4cosδ)≥2V2となります。
整理すると、
cosδ≤43を得ます。
ここで、0<δ<π において、偏向角 δ が大きいほど、恒星に対する離脱速度も大きくなります。
一方、惑星からの最接近距離が大きいほど、重力による偏向角は小さくなります。
したがって、脱出可能な最接近距離の最大値 rmax は、
cosδ=43となる限界で実現します。
半角の公式より、
sin22δ=21−cosδ=21−43=81となります。
0<δ<π であるため、
sin2δ=221です。
4. 最大の最接近距離
問題文で与えられた双曲線軌道の公式は、
sin2δ=μ+rminu2μです。
脱出条件がちょうど等号で成立するとき、rmin=rmax なので、
221=μ+rmaxu2μとなります。
u=2V を代入すると、
221=μ+4rmaxV2μです。
両辺を整理すると、
μ+4rmaxV2=22μより、
4rmaxV2=(22−1)μしたがって、
rmax=4V2μ(22−1)を得ます。
5. 数値の代入
求めた rmax を惑星半径 R で割ると、
Rrmax=4V2Rμ(22−1)です。
制約の値を代入すると、
Rrmax=4(1.3×104)2(7×107)1.27×1017(22−1)=4×132×7×1013127×1015(22−1)=4×7×13212700(22−1)=4×7×132254002−12700となります。
したがって、
A=25400,B=12700です。
なお、
Rrmax≈4.91>1であるため、この最接近距離は惑星の表面より外側にあり、探査機が惑星に衝突しないという条件も満たしています。
よって、
A+B=25400+12700=38100答え:38100